とある場所にて。

1人の友人が俺の側から離れていき、女の元へ向かった。


俺は1人になった。


(さて、どうしようか・・・?)


正直、こんなところにはあまり長いこといたくない。それも1人でなら、尚更だ。


(やっぱ、帰るかな??)


と、そう考えたとき、


「あ、あの、すみません・・・」


1人の女の子に話をかけられた。まだ20歳くらいの若い娘。自分とは一回り近くも違う娘だ。その娘は続けた。


「もしよかったら、わたしと・・・」


俺は彼女の言葉を切って、話した。


「あんた、俺のこと、寂しい奴だろ思ったろ?」


「え、いや、そんな・・・」


「こんな場所に来ているのに、1人でいる。普通じゃ考えられない。」


「・・・・・。」


それを無言の肯定と受け取り、俺はさらに続けた。


「俺のことを、モテナイ奴とでも思ったか?」


「ここにいて、男としか話してなくて、自分から女に話しかけることもなく、女から話しかけられるわけでもない。」


「だったら、わたしが行っても大丈夫とか思ったろ?」


「残念だったな。俺はこれでも結婚してるんだ。」


「ッ!!」


彼女は少なからず、衝撃を受けたようだった。


「家に帰れば、愛する妻もいるし、娘もいる。」


「じゃ・・・」


彼女は何か言いたそうだった。だから、俺はそれを聞いてやることにした。


「じゃあ、どうしてこんなところにいるんですかッ?!」


「愛する妻と娘がいるというなら、どうして!!」


「今日だけで、一晩だけで良いのに・・・」


それっきり、彼女は黙り込んでしまった。だから、俺は言う。


「そうだな・・・」


「確かにあんたはうちの嫁と比べれば、若いし、可愛い。一晩だけと言われれば、断る理由はないだろうな。」


彼女は顔を上げた。少し紅潮しているようだ。それが怒りのためか、何のためだか俺には解らない。そして、彼女は言う。


「だったら・・・」


「・・・普通の男だったらな。」


「だが、俺は普通じゃない。」


またも、彼女はうつむいてしまった。そして、俺は言う。


「そういえば、さっきの質問の答えがまだだったな。」


「え?」


わずかながらの反応。


「俺がここにいる理由だよ。」


「それはな・・・」


うつむきながらも、彼女はその答えを待っているようだった。


「あんたみたいな奴を見れるからだよ。」


「こんな場所だ。普通、あんたみたいな奴はこんな場所でしか見れない。」


「あんたみたいな奴は、こんな場所でしか人に話しかけてこない。」


「そんなことは俺には解ってるんだよ。」


「・・・・・。」


「俺は、普通じゃないからな。」


そして、俺は彼女の元から離れていった。途中から彼女は何も聞いていないようだった。もしかしたら、聞き取れなかったのかも知れない。


俺はすでに彼女を見ていなかった。いや、見れなかった。


さて、我が家へ帰ろう。愛する妻と娘の待つ家へ・・・。


っと、その前に一つだけ。


俺は今自分がいる場所が好きだ。


彼女が俺の前からいなくなったとき、俺が彼女の前から離れていったその時、つい先刻までの騒がしい空間は嘘のように静寂な空間へと変わった。


俺はそんな空間が好きだ。唯一、孤独を感じられるその空間が。一瞬ですべてを洗いさらってくれる、そんな空間が。


そして、俺はタバコを一本取り出し、その場をあとにした。